新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため、3月から全国の小・中・高校、特別支援学校が休校になりました。
3月末から国内でも感染者が増えていき、4月に新学期をスタートすることができず、子どもたちは学校から出される課題に取り組んだりオンライン学習動画を使って勉強したりと家庭での学習を余儀なくされています。
出典:photoAC
このような状況で「9月入学」が話題になっています。
現在の日本は4月に新学期スタート・入学式、3月に学期終了・卒業式というしくみになっています。これを、9月に新学期スタート、夏前(現在の夏季休暇前)に学期終了というしくみに変えようというものです。
世界的にみても9月入学を採用している国は多く、日本でも以前から議論されてきました。
今年、新型コロナウイルスで学校の休校が長くなったことでこの「9月入学」が注目され、賛成派・反対派、それぞれの主張がテレビや新聞などでも取り上げられています。
この記事では、9月入学について議論されている、メリット・デメリットについて紹介していきます。
読みながらぜひ、賛成・反対のいろいろな意見を知り、一緒に考えてみてほしいと思います。
目次
9月入学のメリット
感染のリスクを防ぐ
出典:photoAC
感染者が減ってきたとはいえ、いきなり大人数が集まると感染が広がる可能性があります。
新型コロナウイルスは、年齢が高いほど重症化しやすいといわれています。学校の再開が遅くなることによって、家庭にウイルスが持ちこまれ感染が拡大するのを防ぐことができます。
空白の期間をリセットできる
出典:photoAC
まず1つめに、”学習保障・教育の機会均等”という点があります。
現在、各学校や自治体でオンライン授業がすすめられていますが、オンライン環境が整っていない、タブレットなどの端末がないなど子どもの学習環境には差があります。
本来4月から学ぶべき内容が十分学習する授業を設けられていません。9月に学校をスタートすることで、それぞれの学年で学ぶべき内容を最初からしっかり学ぶことができ、子どもの学習機会を確保することができます。
もう1点、学校行事を改めておこなうことができます。
このままのスケジュールで学校が再開されると、学校行事は中止になるものも多いといいます。春先に運動会を行う学校も多いですが、今年度の開催はなしになってしまう可能性も高いです。
授業での勉強と同じように、運動会や文化祭などの行事も子どもが成長していくうえではとても大切なものです。
9月スタートにすることで、学年末が伸びるので学校行事を改めておこなうことができます。
夏休みの確保
出典:photoAC
今年度の夏休みは大幅に短くなることが予想されます。
実際に授業時間を確保するため、夏休みを2週間や12日間に短縮することを検討・決定している市もあります。
2カ月以上も休校になったのだから仕方ない、冷房があるから授業はできるという声もあります。ただ年々記録的な猛暑が続いているなか、学校の行き帰りや室内での熱中症の心配もあります。
9月スタートにして夏休みを確保することで、こういった健康面での危険を避けられます。
世界基準のスケジュールに合う
高校生や大学生にとっては、9月入学になることで海外の学校への留学が今よりもしやすくなります。
アメリカ、中国、イギリス、カナダ、イタリア、フランスなどは、9月に入学・新学期です。9月入学だと、6月ごろに受験、夏休みが終わったら学校スタートというスケジュールになります。今の日本の学校スケジュールと半年ほどずれることになります。
日本も9月入学になり欧米諸国とスケジュールが同じになれば海外への留学がしやすくなり、グローバル化が進むといわれています。
9月入学のデメリット
新型コロナウイルスが終息しているかわからない
今回の新型コロナウイルス感染症は、以前流行した過去もなく、9月には完全に終息しているという保証はありません。
9月になっても今のような状況が続いているかもしれません。そうなると、9月から今までのような学校生活を完全にスタートさせるということは難しくなってきます。
卒業・入学が遅くなる
9月入学になった場合、未就学児にも大きな影響があります。
「幼稚園や保育園では同級生だったお友達と学年が変わる」なんてこともあるんです。2021年4月に7歳になる子は、7歳5ヵ月まで義務教育を受けられないことになりますが、これは世界的にも高年齢だと指摘されています。
また、来年の4月に小学校入学予定の子ども達が、9月まで入学できず待機児童が増えることも予想されます。
入学が遅くなるだけではなく、当然卒業も遅くなります。高校や大学を卒業した後就職する予定だという生徒は社会人スタートが遅くなりますし、子どもを持つ親にとっては、学校の在籍時間が長くなり学費や生活費などの費用がかかる期間も延びてしまいます。
社会システム全体を変える必要がある
出典:photoAC
学校教育だけでなく、国のシステムにも大きな変化が必要になります。
例えば、現在の日本の会計年度は4月~3月ですが、入学を9月に変えたら予算などもすべて9月編成になります。
会計以外にも、その他にもさまざまな対応が必要になってくるので、簡単に早急に移行できるわけでもなく決断には慎重な判断が必要です。
教育現場への負担
出典:photoAC
現在、幼稚園・保育園から大学まですべてが3月卒業4月入学というしくみになっています。
すべての教育機関が同じタイミングで9月入学をスタートさせるには、膨大な費用・労力・時間が必要です。授業方針や行事の開催時期の見直しも必要になってくるので、教育現場に大きな負担がかかってくることでしょう。
また、小学校では学校・教員へのさらなる負担が予想されます。
学校教育法によると、小学校は”満6歳の誕生日以後における最初の学年の初めから6年間通う”ということになっています。9月入学がスタートする年は、小学1年生の学年がが大幅に増えてしまいます。例えば来年の9月から9月入学がスタートするとします。現状どおり4月に入学する予定の、7才になる2014年4月2日~2015年4月1日生まれの子どもたちに加えて、2015年4月2日~9月1日に生まれた子どもたちも新1年生になるのです。
もちろん、児童が増えた分の教室や教員の確保が必要になってきます。
準備不足での混乱が予想される
ひとくちに9月入学に変わるといっても、それぞれの自治体や教育機関が対応すればいい話ではなく、今の日本の社会システム全体を見直す必要があります。もちろん、新しいシステムに変えるための費用や時間もそれなりにかかります。
今回の場合だと、仮に9月入学をスタートさせるにも準備期間がわずか4カ月弱しかありません。
これまで9月入学のことがまったく議論されてこなかったというわけではありませんが、具体的な準備は全くなされていない状況ですので、スタートまでに十分な準備が整わず、混乱をまねくことが予想されます。
まとめ
出典:photoAC
以上、9月入学のメリット・デメリットを紹介しました。
9月入学制の導入については以前から専門家の間で議論にあがっていましたが、賛成意見やメリットはあるものの現実的には難しいと見送られてきました。
今回新型コロナウイルス感染拡大防止のための休校により、9月入学に切り替えるチャンスではと、世間的に注目を浴びています。
文部科学省が新小学1年生の入学について2案を提出するなど政府の対応もニュースになっていて、9月入学案が進んでいくのか、はたまたこれまで通り見送られるのかは現時点ではまだわかりません。
しかし、休校が長く続いたことによって、子どもたちが去年までのような学校生活を送れていないという事実があります。
今は、休校によって”遅れた学習を取り戻す学力保障”や”子どもたちの心のケア”が必要です。
友だちと会って遊べずさみしい思いをしたり、授業がなく勉強の遅れが不安になったり、部活動に力を注いできたのに自分たちの代の大会がなくなって言葉にできない虚しさ・悔しさをかかえていたり、家にいることが長くなり虐待の危険におびえる子どもたちもいます。
世界的に異例な事態だから仕方がないと言ってしまえば簡単ですが、子どもたちにとってかけがえのない教育の場や学ぶ機会が失われたことには変わりありません。
このような問題に目を向けて、対策が進むことが求められています。